『超マクロ展望 世界経済の真実』(水野和夫・萱野稔人の共著)を読んで・・・・・・【要約】その6

第5章 日本はいかに生き抜くべきか −極限時代の処方箋−

この章の前半では、これまでのまとめとして物質経済から金融経済への移行とその意味、交易条件の悪化、飽和した市場、資本の高い流動性を再度細かく別の例を挙げ、後半でこれから日本はどうしていくべきか、日本だけではどうしようもない部分もあるのでグローバル経済における大きな問題、余剰資本の流動性の高さをどうするか(トービン税の導入)を提言している。

以下、章題に関するところ。
日本はさしあたって財政健全化が差し迫った緊急課題(と10年以上前から言われているのに手付かず状態)。
これは「必ず経済は成長し、パイは拡大するもの」、「景気は必ず回復する」という思い込みから抜け出せず、甘い見通しから成り立っている社会保障制度等が問題。しかし、一度拡充するとなかなか見直せないので(水野氏談)、やはり社会保障以外での歳出削減が必要?
以上が214頁までの内容。
このあと萱野氏が「ただ、財政赤字の問題がいくら重要だとしても、結論が『低成長の現実を直視して財政再建にいそしむ』ということだけではちょっと寂しいですよね。ですのでここでは、市場が飽和化してしまった低成長時代においてなおどのような経済戦略がありうるのか、ということを議論したいと思います」と言って日本経済の議論が続くが、先の宣言通り、付け足し感が否めない(笑)




以下、完全な私見

本章で、個人的に物足りないと感じているのは「財政健全化が緊急課題」といいながら特別会計などに深く切り込んでいない点。
それと、国際市場で新たなルールを策定するというが、新たなルールを作るための外交力のなさ(佐藤優の著書『自縛する国家』等で外務省は省内で有能な人が適材適所で力が発揮できない方向へと体制が作りかえられている、と詳細に指摘している)。


先進国は自国内で物が売れないので、資源がなければ製品を輸出し、外需に依存していかなければ成長できない。
ただし、外需に依存しすぎると2008年の金融危機の時のように、一気に世界経済が悪化した際、打撃が大きい。
だからと言って、内需を、というのは先進国は無理なので外需に依存してやっていくしかない。仮に、経済成長を望むのであれば。

そのためにはメイドインジャパンのブランド力が必要ではあるが、家電や車は交易条件の悪化等によって衰えつつある。
では、交易条件に左右されないものを輸出していけばいいのでは?
昨今話題の、苺のあまおう(アジア圏で好評)、ブランド和牛(中国への輸出が急激に増えている)など。しかし、農作物の場合は天候に影響されること、牛の飼料自体を輸入していることなど、憂慮する点もあり、難しいか。


TPPは、内需拡大が見込めなくなり、金融経済が破綻した先進国アメリカが外需(輸出)で国内景気を盛り上げようという狙いのルールなので日本が参加してはいけないのは当然。だが、国益を考えて外交をするという力があまりない日本はTPPに参加して、これ以上の歳出削減をせずに消費税率アップになりそうですね、菅の米ポチぶりを見てると。


しかし、G20も動きが遅い。今月、投機マネーの規制について論議だと。新興国にとっては投機マネーが流れてくることだけを見たら大事なことだけど、集まりすぎてバブルになると弾けるのだから2008年金融危機直後、2009年には話をつけておかないと。原油価格・食料価格が上がってきてからでは遅いっしょ。やっぱり投資家サイドから圧力がかかっていたのか?
金融危機で大損こいた分を取り戻してからとか。




★今後取り上げる予定の本
ちきりんさんの「ゆるく考えよう」(理由、同じはてなダイアリーだからw)
孫崎氏の「日米同盟の正体」、「日本人のための戦略的思考入門」(理由、もっと注目されていい本だから。特に前書)
佐藤優氏や天木直人氏ら外務省出身官僚の書物あたり。
官僚国家なのだから、官僚、元官僚の言動や書物に注目すると日本政治がよくわかっていいと思うのだけれど、イマイチ読まれていないのは不思議。日本の政治を語るなら、当然着目する点だと思うのだけれど。



おかしな点がありましたら、ご指摘の程よろしくお願いします。

『超マクロ展望 世界経済の真実』(水野和夫・萱野稔人の共著)を読んで・・・・・・【要約】その5

第4章 バブルのしくみと日本の先行性 −日米関係の政治経済学−

ニクソン・ショック以降の米国経済
萱野「私たちはここまで、資本主義は現在どのような歴史的状況にあるのか、ということを議論してきました。そこで明らかになったのは、資本主義はいま極限的な状態に達しつつあり、これまでになかったような大きな歴史的転換をむかえている、という現実です。
 では、そうした極限的状況を日本経済はどうやって乗り切っていけばよいのでしょうか。この問題を考えるために、まず、金融化するアメリカ経済のもとで日本経済はどのような状況に置かれてきたのかを確認していきたいと思います。」
水野「二十一世紀の利子率革命がまさに日本で進行しているように、ある意味で、資本主義の極限状態が日本でもっともあからさまにあらわれています。その日本を、金融経済化してきたアメリカに対してどのように位置づけるかは、とても重要な問題ですね」(148頁より抜粋)
と言って、このあと主にニクソン・ショック以降のドル政策・経済政策(レーガノミックスの失敗、ルービンの強いドル政策の成功。それぞれの要因等)に注目していく。

そもそもニクソン・ショック(≒金・ドル交換停止策)は、米ソ対立のこともあり、WWⅡで疲弊していたヨーロッパ(と日本)を立て直すため援助していたアメリカの財政赤字が膨らみすぎたことが背景にある。
ニクソン・ショックでドルの切り下げ、変動相場制の導入。
ニクソンはこの時「この政策の目的、効果は“長期的に”言うと、ドルを強くすることである」と述べている。
共和党はこの頃から金融経済で優位性を確立しようとしていたのでは?(水野氏の私見)
というのも、レーガノミックス(例えば、1983年の日米円ドル委員会設置)、
1990年代は共和党以上に共和党的と言われたクリントン政権の元、ルービンの「強いドル政策」に注目すると、そのことが浮かび上がってくる。
レーガン時代は債権でお金を集めたことに対し、ルービンの時は主に株式で集めた。前者は利払いの有り、後者はない。それが成否を分けた(注1)

ルービンは集めた資金で国内バブル(90年代のITバブル、2000年代前半の不動産バブル)を起こして、それからアメリカが外国に投資する時は相手国をバブルにして(ドバイ等が当てはまると思われる)、海外から調達したお金を使って高いキャピタルゲインを得ていった。これは、お互いバブルに依存しあってる構造。



(注1)ルービンの後任サマーズ財務長官は「アメリカの借金は借金ではない」なんてことを2001年から言い始めている。国際収支の中身をみるとエクイティとして資金が入っているので、それは借金じゃないと言えなくはない(水野氏)



●日本のバブルは米国より何故先に起こったか。
主な理由は2つと水野氏。1つめ、日本は第一次オイル・ショック以降、貿易黒字が定着して、世界の対外純資産国になり、自国の貯蓄で十分バブルを起こせるだけの資本が蓄積されていたこと。
2つめ、「日本は自らバブルを創出することによって対米資金還流を積極化し、折から軍拡を続けていた米国を金融面で支えたこと、その意味で日本のバブル経済化とは、冷戦にとどめを刺そうとしていた米国の覇権を裏から支える国際政治的意味合いを持っていた」(谷口智彦著『通貨燃ゆ』19〜20頁)

(以下、本文抜粋)

水野「レーガン政権は、ソ連と激しい軍拡競争をしていましたよね。それによって拡大する財政赤字を日本の企業がファイナンスしていたのです(注2)たとえば日本の生保はザ・セイホといわれて、プラザ合意でドル安になったとき、たしか大手7社で1.7兆円を上回るそんを出しています」
萱野「アメリカの国際で?」
水野「そうです。でも、そこで損をしたので引き揚げるとなったら、アメリカは困ってしまう。それで、ザ・セイホがドル債投資で損しても、それをはるかに上回るような含み益があればいいということで、アメリカの要請のもとで日本でバブルが引き起こされたんだという説明です。うーんとは思いますが、たしかにアメリカならそれぐらいのことはやりかねないなという気はしますね。
 バブルのピークは、ベルリンの壁が崩壊した直後の1989年12月末に日経平均株価で3万8000円記録したときですが、翌年になると、株式の先物市場で日経先物というのがちょうどできて、今度はそこで外国人投資家主導でどんどん売り浴びせがなされるんですね。それでみるみる日経平均が下がっていった。アメリカからすれば、米ソ冷戦が終われば日本のマネーはもう必要ないわけですし、日本のプレゼンスがこれ以上大きくなるのは好ましくないと思っていたとしても不思議ではありません。しかし、ちょうどその頃、湾岸戦争(1991年)が起こったので、平均株価が2万円になっても、その下落は湾岸戦争による一時的な下落だと思われていました」
萱野「湾岸戦争が終わればまた上がると」
水野「みんなそう言ってました。湾岸戦争が終わればすぐまた4万円になっていくんだと。私もそうだと思っていた(笑)。ところが湾岸戦争が終わってもぜんぜん上がらないんですね。つまり、レーガノミックスで対ソ軍拡競争にアメリカが勝ったから、もう日本の土地バブルは必要ないと。
 そういうふうに解釈するのでなければ、1989年11月9日にベルリンの壁が崩壊して、1,2ヶ月で日経平均株価がピークをつけたのは、偶然というにはあまりにもでき過ぎているんじゃないかと思うんです」

(本文抜粋、ここまで)

(以下、本文内でも抜粋されてる孫崎享著『日米同盟の正体』94頁より抜粋)
「スタンズフィールド・ターナー元CIA長官は、『新世界秩序に対する諜報活動』で『冷戦後の情報収集で重要なのは経済分野と第三世界だ』と主張した。日本経済はCIAの標的となる。このことはCIAが日本経済に被害を与える工作を行う可能性を示唆している」

これ以降もアメリカの思惑と、ほぼその思惑通りになっていく日本の姿が指摘されていき、
最後の方で、「近代において、日本はバブルとデフレ等を先取りしたので(笑)、世界を(=先進国の中で)先行している。
さきがけて今ある諸問題をクリアできれば、世界をリードできるのではないかと」というように結んでいる。


以下の注は、私が勝手に入れたもの。
(注2)168頁で水野氏は「この時の日米関係は、16世紀のオランダの独立を阻止しようと戦争していたスペインと、そのスペインを財政的に支援していたイタリアの関係に酷似している」と指摘。
萱野氏も「バブル崩壊後に日本経済が停滞したり、21世紀の利子率革命が起こったりしたことも含めると、いまの日本と当時のイタリアには恐ろしいほどの酷似性がありますね」と述べている。

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まとめとしては以上なのだけど、水野氏が「アメリカにとってこれは誤算だったのでは?」と指摘している箇所が面白いので172頁〜173頁より抜粋。

水野「ソ連との軍拡競争でアメリカは巨額の財政赤字がつづくのでアメリカの国債を(日本に)買ってほしいというのがあったと思うのです。しかし、ちょっとだけアメリカに誤算があるんですね。ベルリンの壁が崩壊したからいいだろうと思って日本のバブルを崩壊させたら、ほんとうに日本はお金に困ってしまった。
 実際、日本は米ドル債を売りアメリカから資本を回収しました。それからドイツも同じ1991年に東西ドイツの統合で旧東ドイツの復興にお金が必要になったから米ドル債を売ってドイツに戻しているんですね。当時、日米独で世界をファイナンスできるという状況でしたから、日独の2カ国が引き揚げたらやはりアメrカは困ってしまった。S&L危機(貯蓄貸付組合の連続破綻)も起こりましたし」
 ロナルド・マッキノンという著名なアメリカの経済学者が『ドルと円』という本で、1991年にS&Lが崩壊したのは、日本とドイツが米ドル債を売ったからだといっているんですよ。やっぱりアメリカはそう見ているんだなと思いました」
萱野「そんなこと日本ではまったく知られてないですね」
水野「ないですよね。マッキノンといえば、アメリカの大御所中の大御所の経済学者です。そういう人の本のなかに堂々と書いてあるわけです。それをみて、さまざまな情報をいまからつなぎ合わせると、対日戦略といのがやっぱりあったんだろうなと思います」

(抜粋、ここまで)



以下、私見
アメリカの金融バブルは流動性を高めた資本を新興国(≒後進国)に注ぎ込んで、利益を上げ続ける。全世界では人口が増える傾向にあるので1つの国の実物経済が停滞するまで、そこで回し続けていく。それが可能だと考えていたのでは?

アメリカは、かつての覇権国が衰退していった理由を分析しまくり、自国はそうならないよう戦略を立てていた。
しかし、なんでも計画通りに行かないのは常。盛者必衰なので、アメリカもこれから没落していく(チュニジア、エジプトでの反政府デモによる中東不安。ロシアにも飛び火したような動きが・・・)

アメリカの発言力が弱まっていくのを中国は待っているのでは?



おかしな点がありましたら、ご指摘の程よろしくお願いします。

日本の政治が地方から変わるかもしれないという予感

橋本知事がツイッターを始めた。
そして、早くもツイッターがメディアの代わりとなって自分の発したい情報を誰にも加工(編集・カット)されることなく伝えられるソーシャルメディアになりうることに気付いたようだ。

ツイートを見る限り、既得権益を持つ公務員たちの抵抗を受けたが、民主党マニフェストで掲げていた「官僚政治からの脱却、政治家主導の政治」を実行している模様(注)

これが日本全土に広がれば、成熟した間接民主制に近づく。ちょうどチュニジア、エジプトでもツイッターが一因となり反政府デモが行われている。
橋本知事が具体的にどういうヴィジョンを描いているのか詳細はわからないが、(市民が選んでない)官僚制から(市民が選んだ)政治家主導の政治へ移行することは、民意を反映するという点において(既得権益を握る官僚たちが好き勝手しすぎえない点においても)、大きな一歩となると自分は見ている。

橋本知事がツイッターで大きな反響を得ていることにより、他所の都道府県知事などの地方自治体のの首長や市町村議会委員がツイッターを始めれば(東国原氏はやっていたけど、いまいち有効利用できていなかった気がする)、地方から国は変わるかもしれない。

というか、個人的には希望を見出したい(笑)

去年の春頃に、上杉隆の「なぜツイッターでつぶやくと日本が変わるのか」という本を読んだ時は半信半疑だったけど、変わる予感が本当にだいぶしてきた。


(注)2月3日の橋本知事のつぶやきをまとめたもの→ http://togetter.com/li/96479



『超マクロ展望 世界経済の真実』(水野和夫・萱野稔人の共著)を読んで・・・・・・【要約】になっていませんがその4

第3章 資本主義の根源へ
●資本主義は市場経済とイコールではない

(以下、文意を変えずにほぼ抜粋)
萱野「もし世界資本主義におけるヘゲモニーが一国単位で形成されなくなるのであれば、世界のかたちは今後、国民国家を単位にした国際秩序ではなくなっていくでしょう。
 ただしここで注意しておきたいのは、その脱国民国家化の流れはけっして国家そのものがなくなるということではありません。資本主義が国民国家の枠組みに基づかなくなるということと、資本主義が国家そのものを必要としなくなるということとは、まったく別のことがらです」
水野「私は『国家と資本が離婚する』という言い方をしばしばしますが、そこで意味されているのは、資本の活動がもはや一国の国民経済を豊かにする方向にはむかわないということ。生産拠点が新興国へとどんどん移転され、そこが資本主義の場所になると、先進国の資本は高いリターンをもとめてそうした新興国へと向かうことになります。そうなると、これまでの先進国の住民は資本から見放され、仕事がなくなり、必然的に貧窮化しますよね。資本が国民経済という枠組みから完全に解放されるということ。ただしそれはけっして資本が国家を必要としなくなるということではありません」
萱野「私がなぜ『国家』の問題にこだわるのか。それは資本主義を市場経済と同一視するような見方が日本ではとても強いから。逆にいうと、資本と国家は対立するものだという前提に多くの人がたっている。新古典派の経済学者やエコノミストたちはだいたいそうです。
 こうした見方は、私のいる人文思想の世界でも根強い。とくに1990年代の日本の思想界では、グローバリゼーションによって国境の壁がどんどん低くなり、国家も次第に消滅していくだろう、ということが盛んに言われました。当時はなぜか『国家を超える』ということが思想界での最大のテーマになっていて、その文脈でグローバリゼーションがやたらと称揚されたりもしました。私が国家とは何かということを理論的に考えるようになったのは、こうした安易な『国家廃絶論』に辟易したからでもあります。国家とは何かを考えもせずに、安易に『国家の廃絶』とか言わないで欲しい」
水野「国民国家と国家そのものを取り違えてしまったんですね」
萱野「そうです。ちょうど90年代というのは、アメリカが自らの金融的なヘゲモニーを拡大するために、各国に対して規制緩和や民営化をせまっていた時期。各国の市場を開放させ、そこにアメリカの資本が入っていきます。自由市場のスローガンというのは、いわばそのときのアメリカの方便でした。その方便を、日本の思想界は真に受けてしまった(注1) アメリカの国益に裏づけられたものを、あたかも国家そのものを否定するものとして受け取ってしまった。
こうした安易な国家廃絶論は、なんでも民営化していくべきだと考える市場原理主義者たちに典型的にみられるものですが、同時に、国家権力を批判しようとする左派やアナーキストたちにもしばしば見られます。アナルコ・キャピタリズム(無政府資本主義)なんてその典型ですね。両社に共通しているのは、資本主義市場は国家とは独立に存在しているという観念であり、資本主義がもっと発達していけば国家は消滅するだろうという想定です」
水野「なるほど。思想界では、資本主義を国家と対立するシステムとしてとらえてしまうような論議がかなりあったんですね
私の言葉でいえば、アメリカの金融支配は『帝国化』ということになるのですが、『帝国』だって国家であることに変わりありません。国際政治学者のマイケル・ドイルの定義によれば、国民国家も『帝国』になりうるのですから、それはけっして国家がなくなるということではありません。
そもそも資本主義の歴史を辿れば、必ず覇権国の存在があります。1990年代には、国際資本の完全移動性が実現されて、資本は国境をやすやすと越えていくようになりましたが、それ自体、アメリカが金融帝国化するための戦略だったということです」
萱野「そうなんですよね。資本主義が市場経済と同一視されると、そこはフラットな自由交易の世界であるかのようにとらえてしまうんですが、実際のところは、イラク戦争がドル基軸通貨体制を防衛する為の戦争だったように、市場のフレームそのものは国家のもとでの力関係によって決定されている」
萱野「その通りだと思います」
水野「たとえば思想の世界でいうと、経済学者の岩井克人さんや批評家の柄谷行人さんが市場と資本主義を同一視する論者の代表格です。岩井さんは『ヴェニスの商人資本論』のなかで、商人たちによる遠隔地貿易が資本主義をもたらしたんだということを述べています。つまり、遠隔地で商品を買ってきてこちらで売れば、むこうとこちらでは価値体系が異なるので、その差異によって利潤がうみだされる、その利潤が資本となるのだ、と。
資本主義の原型は複数の価値体系のあいだでのフラットな交易にある、という認識ですね。同じように柄谷さんも、資本主義の原理は異なる価値体系のあいだでの交換にあると考えています。
 彼らの議論は、90年代から2000年代前半ぐらいまで、思想系の論壇やアカデミズムでとても大きな影響力をもちました。でも、資本主義を市場における交換へと還元するような認識はそろそろ見直されなくてはなりません。
水野「交易条件ひとつをとっても、そこには市場には還元できない力が働いています。私たちの議論はそうした認識の見直しにもつながっているわけですね」
萱野「そうなんです。ですので、ここでは資本主義と国家の関係をすこし理論的に考えてみたいと思います。
 ここまでの議論からもわかるように、資本主義はけっしてたんなる市場経済として成立してきたのではありません。資本主義は長いあいだ、先進国が軍事力を背景に有利な交易条件を確立しつづけることで成立してきました。そこでは覇権国が平滑空間を創出して、対等な交換というには程遠いやり方で富を獲得してきた。この意味で、資本蓄積の原理というのは交換よりも略奪に近い。1970年代以降の金融経済の動きだって、けっして市場の力だけでなされたものではありません。それはアメリカと言う国家のヘゲモニーをつうじて、そのヘゲモニーを維持するために、なされてきたものです。資本主義はけっして市場経済とイコールではなく、そこには国家の存在が深く組み込まれている。」

(抜粋、ここまで)

このあと、この章では「近代の資本主義社会がどのようにそれまでの封建制社会から成立してきたのか」を欧米、主に欧州の古代専制国家まで遡り、略奪という経済活動や、政治的主体と経済的主体がかつては一致していたが今では役割分担されていること、利子率革命(注2)
、“16世紀のグローバル化と現代のグローバル化の相同性”(注3)に言及し、“資本主義はけっして市場経済とイコールではなく、そこには国家の存在が深く組み込まれている”ことを論じている。


(注1)孫崎享『日米同盟の正体』にもこうした米国の戦略が「シーレーン構想」という具体例をあげ、記されている。
(注2)<以下130〜131頁にある水野氏の言>利子率革命とは、中世になってつづいていた高金利が、16世紀末から17世紀にかけてヨーロッパ全域で急落した現象のこと。これにより中世の封建制・荘園制が崩壊し、資本主義経済への転換が起きた。
(注3)ドイツの社会学ノルベルト・エリアスが「封建的な政治単位が近代においてもっと広い単位へと統合されていった要因は2つあり、1つは貨幣経済の広がり、もう1つは軍事技術の発達」と言ったことに触れ、本書では貨幣経済の広がりと軍事技術の発達にも言及している。

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まとめようと思ったけど、今回は無理でした。というか第3章は最初の6ページがまとめになっていて、7ページ目以降は“詳細”という構造なので、素直に抜粋。
第1章、第2章も対談がまとまっていた感じのものなので、十分まとまっていて、それを更に要約というのは厳しかった。
そもそも本書は、新書で出す内容じゃないと思う。でも、分厚いハードカバーの本って敷居が高いから、敷居を下げ、そして“この大局的視座が広まりますように”という願いが込められ、新書のかたちで出てる気がする。水野さんは、今や内閣府官房審議官なので忙しいという理由もあるかもしれないけど。

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おかしな点がありましたら、ご指摘の程よろしくお願いします。

『超マクロ展望 世界経済の真実』(水野和夫・萱野稔人の共著)を読んで・・・・・・【要約】その3

・第2章「資本主義の歴史とヘゲモニーのゆくえ」
●世界資本主義の歴史において、ヘゲモニーの移転と利潤率(注1)の変化は相関している

500年の世界資本主義の歴史は、特定の国がそのつどヘゲモニーを確立しながら、そのヘゲモニーが移転されていくことで展開してきた。
最初はイタリアの都市国家ジェノヴァヴェネチアフィレンツェ等で資本主義がはじまるが、すぐにその利潤率は低下する。
そのあと、資本主義の勃興とともに、世界経済の中心はオランダ、18世紀から19世紀にはイギリス、20世紀の前半にイギリスからアメリカへと移っている(注2)このサイクルからみると、どの国のヘゲモニーにおいてもまず実物経済のもとで利潤率が上がり、ピークを迎え、低下する。低下すると、今度は金融化というか、金融拡大の局面。この金融拡大の局面で、ある種のバブル経済が起こる。バブルは弾け、その国のヘゲモニーも終わりに向かう。

しかし、今、経済はグローバル化しているのでアメリカから次のどこかしらの一カ国へとヘゲモニーは移ることはないのではないか。
今まではヘゲモニーをもつ国は同時に世界の中心的生産拠点だったが、今後は分裂し、中国やインドが世界の工場になるけれども、資本をコントロールしたり、世界経済のルールを定めたりして、中国やインドの成長の余剰を吸い上げるのは別の地域になる可能性がある。
欧米が手を組んでG2になるか、そこへ中国が入ってG3に?


(注1)資本の利潤率は長期としては利子率として表れる。<本書では1350年〜現代までの利子率グラフが載ってます。気になる方は是非本書にあたってください>

(注2)歴史を踏まえている点を重視するので、この部分の詳細を以下に。
オランダの東インド会社に資本が集まり、蓄積される。その結果利回りが下がっていき、利子率が2%に近づくと、オランダに投資する魅力がないので、じゃあナポレオン戦争でイギリスが勝ったからということで、イギリスに投資資金が移る。しかし産業革命のあと、イギリスでも金融化が起きて、もうこれ以上イギリスでは投資機会がないということになる。そこで今度はドイツやアメリカがイギリスを追っかけて工業化していて、そちらで高いリターンが得られるのでアメリカに投資される。

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かなり簡単にまとめると、以上なのだけれど、
本章では、カール・シュミットの『陸と海と』、ジル・ドゥルーズとフェリックス・ガタリの共著『千のプラトー』が引き合いに出され、ヘゲモニーと空間支配の関係(≒ヘゲモニーと軍事力の関係)、欧米中の3つを軸にヘゲモニーのゆくえ等をもっと細かく論じられているので興味を持たれたら、本書にあたってください。
お薦めです。
上記以外で興味深かったところを整合性を保つ為に補足しつつ抜粋。
水野「中国にはアメリカのヘゲモニーをそのまま奪い取るような力はまだありません。そういう意味では、実現性が高いのは後者のシナリオ(欧米連合体が軍事と金融を牛耳って世界経済のルールを定め、中国の経済成長の果実を吸い上げるというシステム)だと思います。おそらく中国がアメリカやEUから何らかの見返りをもらって、バランスを取る。それで満足するということになると、いよいよG3の時代がくるんですかね。」
萱野「リーマン・ショックから1年ほど経った頃に、それを裏づけるような朝日新聞の記事(2009年10月25日)がありました。アメリカのピーターソン国際経済研究所ってあるじゃないですか。民主党とのかかわりが深いところですけれども、そこの所長が、ドル基軸通貨体制はもうアメリカの国益ではないといっているんです。今後はユーロとドルの二極基軸通貨体制でいくべきであり、G何とかという枠組みも、米中のG2か、あるいはEUを入れたG3でやるべきだといっているんですね」


以上の対談を行ったのがいつなのかはわからないけれど(ギリシャ危機の前だと思うのだけど)、2011年の現時点でドルとユーロの二極基軸通貨体制はありえないでしょう。ギリシャ危機があって、次はポルトガルがヤバイとか、イタリア、フランスの内政状況を見てると。

ローマ帝国はなぜ滅びたのか」とか「覇権国家であり続けるためには」ということをアメリカでは研究し、研究した人たちが論文を競い合い、その中で優秀なものを書いた人が政治に関わっていくというシステムがあるらしいので(副島隆彦の著書より)、アメリカはヘゲモニーをなかなか手放さないであろうことは間違いなく、また中国は中国人の繋がりがすごいので(華僑の繋がり、といった方が正確か?)、自国民から利益を吸い上げ、他国へ譲るという選択をするかどうか。
今回の胡錦涛の訪米で、オバマから今回も人民元切り上げを要求されてたけど拒否してたし。



【注意】“本書に収められた対談をはじめたのは2009年初頭”と、本書のあとがき的部分の「対談を終えて」にある。




おかしな点があったらご指摘の程よろしくお願いします。

今回の芥川賞は話題性が高くて良かった

まずは受賞者。
朝吹真理子三井財閥末裔の慶應院生お嬢さま。
前作『流跡』はBunkamuraドゥマゴ賞受賞。
西村賢太は父親が強盗強姦で逮捕後、両親離婚と家庭環境が複雑な中卒フリーター。
受賞記者会見で「受賞の時は?」との質問に
「自宅で、そろそろ風俗いこうかなと。いかなくてよかったです」


今回から選考委員になった、芥川賞最多落選記録保持者島田雅彦
島田氏が芥川賞にノミネートされていた1980年代の出版界は今と違って不況ではなかったので、島田氏がノミネートされた回には受賞作なしの回も。
芥川賞創設は新人賞なので、純粋に作品の質のみならず、
作家としての資質(将来性)も含めて考慮されなければならず、
純文学作家として長くやっていくためには「芥川賞作家」という看板がないよりはあった方が断然いいので、支援的側面も強い。
そういうことを勘案すると、芥川賞をなぜ村上春樹島田雅彦に与えなかったのか、という問題がある。
その為、芥川賞受賞してない島田雅彦(作家歴は25年以上。純文学作家として学生の頃から半世紀以上活躍するケースは稀)が
「結果的にオレの思惑通りになってよかったよ。都知事は意外と謙虚だったよ。彼が謙虚になれる唯一の場だったりして」とツイートした意義は深い。

出版不況の最中、純文学を盛り上げていく為には話題を提供していかなければならないので今回は話題豊富で良かった。
これで出版社が潤い、小さな市場にある翻訳文学に投資するお金が増えるかなと。
自分はガイブン好きなので。


最後に、受賞作に触れると、
朝吹真理子の受賞作『きことわ』は読んでいないのでよくわからないけど(『流跡』は積読)、
西村賢太の『苦役列車』は、西村氏本人を投影したダメ男の私小説
西村本人は「書き方の問題なんですけど、2:8でフィクション。フィクションが8です」と述べている。
第144回芥川賞直木賞受賞記者会見はニコニコ生放送でやっていて
視聴者が最大4万以上いて、盛り上がっていたので(特に、西村氏の時には)売上に繋がると思われる。


西村賢太は過去の芥川賞ノミネート作もお薦め。

『超マクロ展望 世界経済の真実』(水野和夫・萱野稔人の共著)を読んで・・・・・・【要約】その2

・第1章「先進国の越えられない壁」
●先進国(日本は除く)は、交易条件(安く資源を仕入れ、製品を作って高く売るという効率のいい貿易ができているかをあらわす指標)の悪化により実物経済から金融経済へとシフト。


交易条件が悪化したのは、1973年の第一次オイル・ショックから。
第一次オイル・ショックまではタダ同然で仕入れることができた原油等の価格があがり、
1994年の原油価格は1バレル17.2ドルで日本全体で年間4.9兆円の出費。
2008年は1バレル99ドルで日本全体で年間27.7兆円の出費。

交易条件は、あくまでモノやサービスなど、実物経済の状況を表したもので、
資産の売買回転率を高めることによって得られる売却益は交易条件の影響を
受けない=株式投資キャピタルゲインなどは含まれない。会社でいえば運用損益は
除外されている。先進国は交易条件が悪化したことで、金融に儲け口を
見出していくようになる。
例えばアメリカの全産業の営業利益のうち2001年10〜12月期には、
金融機関の利益が全米企業の49%を占めていた。10年間の利益増加分で比較すると、
金融機関の増加利益は全産業の84%にまで達する。アメリカの労働人口のうち、
金融機関で働いてる人は5.3%。つまり20人中1人の人が利益の半分以上を稼いでいる。
製造業で稼ぐ日本の経済とはかけ離れた姿。
日本は省エネ技術で1999年ぐらいまで乗り切っていたが原油価格の高騰がすごく、
省エネ技術が追いつかなくなった。
交易条件の悪化を省エネ技術で克服できなかったアメリカは、
レバレッジをかけ金融で利潤の極大化を目指す。
1995年以降、アメリカは日本やアジアの新興国で余っているお金を
自由に使えるようになり(国際資本の完全移動性の実現)(注1)、
これが金融経済拡大に拍車。世界中から投資されるお金によって、アメリカで
ITバブル、住宅バブルが起こり、その過程で債権の証券化などのさまざまな
金融手法が開発され、サブプライムローン問題なども生じることとなった。
こうして、1995年から金融危機が起こる2008年までの13年間で、
世界の金融機関全体で100兆ドルものお金が作られた(注2)


話は戻り、石油の話。
オイル・ショックあたりまでは、英米蘭の石油メジャーが世界の石油を
ほぼ独占=原油の開発権の独占、国際カルテルを結んで価格を仕切っていた。
60〜70年代にかけて、産油国で資源ナショナリズムがまきおこったことの直接的な帰結。
植民地だった資源国が独立を果たし、自国の資源をその価格も含めて自分たちで
管理しようとした。OPECの発言力、一気に高まり、石油の価格決定権は
1980年代前半までOPECが手にする。
この価格決定権をアメリカが取り返そうとして1983年にできたのが、
WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)先物市場。
石油の先物市場をつくるということは、石油を金融商品化するということ。
これ以降、石油はアメリカやロンドンの先物市場で価格が決定される(注3)


イラク戦争が起こった本当の理由の1つは、2000年11月にイラク大統領のフセインが、
「これからは石油の売上代金をドルでは受け取らない、すべてユーロで受け取る」
と国連に対して宣言し、承認されたこと。
これは、石油に裏付けられたドルの基軸通貨体制にフセイン
対抗したということ(注4) つまり、イラク戦争は、石油そのものを巡って
行われたのではなく、石油についての国際的な経済ルールをめぐって
なされた戦争であるということ(注5)

2008年の金融危機は、アメリカによるグローバル経済の支配の
曲がり角にきてるということかもしれない。
グローバル経済におけるアメリカのルール策定能力が今後も
維持されるかどうかは怪しい。G20でヨーロッパ側は金融規制を強化しろと主張。
アメリカは本心ではそんなに規制したくないが譲歩せざるを得ない状況。
アメリカの覇権は揺いでいる。


(注1)マーティン・フェルドシュタインとチャールズ・ユウジ・ホリオカは
1980年に発表した論文で「国際資本の完全移動性」に関する検証方法を提唱。
この検証方法によって、1995年に国際資本が国境を自由に越える様になったことが明らかになった。

(注2)100兆ドルの内訳、アメリカ4割、ヨーロッパ3割。残り3割の記述は本書になし。
日本は戦後60年がんばって1500兆円の金融資産。欧米主導の金融空間では、
たったの13年間で100兆ドル。これは途方もない数字<通貨単位の違いに注目>

(注3)WTI先物市場にしても、ロンドンのICEフューチャーズ・ヨーロッパ(旧国際石油
取引所)にしても、そこで取引されている石油の生産量は世界全体の1〜2%。
世界全体の1日あたりの石油生産量は、2000年代前半の時点で大体7500万バレル。
これに対して、NYやロンドンの先物市場で取引される1日あたりの生産量は
せいぜい100万バレルで1.5%にも満たないが、先物取引というのは相対取引で何度も
やりとりするので、取引量だけでみると1億バレル以上になるその取引量によって
国際的な価格決定をしてしまう。

(注4)ドルが基軸通貨であり続けることが、アメリカが覇権国家であり続けることを
支えている。

(注5)先進国にとっての戦争が、ある領土の支配権を獲得するためのものではなくなり、
脱領土的なシステムを防衛するためのものとなったことを表している=経済覇権の
あり方が脱植民地化のプロセスを通じて大きく変化したということ。
アメリカは中東にあまり石油利権をもってない。中東から輸入してる原油は、
アメリカの石油消費量に対して1割程度。それもサウジアラビアが自らの発言力のために
無理やり値引きをしてアメリカに勝ってもらってるようなところがある。主な輸入先は
カナダ、メキシコ、ベネズエラ。それにもかかわらず、中東で何かあれば一気に
国際石油市場のあり方に影響を与えるので、アメリカは軍事介入せざるをえない。

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以下、完全な私見
フセインOPECを巻き込んで「これからは石油の売上代金をドルでは受け取らない、
すべてユーロで受け取る」と宣言すればイラク戦争は起きずに、アメリカの覇権は
完全に揺らいだのでは?石油の売上代金がユーロで取引されることになれば、
EUの力は増し、アメリカ一極支配が終わったような気がするので、EUフセイン
OPEC」を巻き込めとアドバイスすれば(裏で糸ひけば)良かった気もする。
実際、そういう動きがあったかもしれない・・・・・・米国に潰されたか?

【追記】ジャスミン革命により、中東情勢は不安定になりそう。
米国との繋がりが深いサウジアラビナ等の国がどうなることやら。



おかしな点があったらご指摘の程よろしくお願いします。