『超マクロ展望 世界経済の真実』(水野和夫・萱野稔人の共著)を読んで・・・・・・【要約】その3

・第2章「資本主義の歴史とヘゲモニーのゆくえ」
●世界資本主義の歴史において、ヘゲモニーの移転と利潤率(注1)の変化は相関している

500年の世界資本主義の歴史は、特定の国がそのつどヘゲモニーを確立しながら、そのヘゲモニーが移転されていくことで展開してきた。
最初はイタリアの都市国家ジェノヴァヴェネチアフィレンツェ等で資本主義がはじまるが、すぐにその利潤率は低下する。
そのあと、資本主義の勃興とともに、世界経済の中心はオランダ、18世紀から19世紀にはイギリス、20世紀の前半にイギリスからアメリカへと移っている(注2)このサイクルからみると、どの国のヘゲモニーにおいてもまず実物経済のもとで利潤率が上がり、ピークを迎え、低下する。低下すると、今度は金融化というか、金融拡大の局面。この金融拡大の局面で、ある種のバブル経済が起こる。バブルは弾け、その国のヘゲモニーも終わりに向かう。

しかし、今、経済はグローバル化しているのでアメリカから次のどこかしらの一カ国へとヘゲモニーは移ることはないのではないか。
今まではヘゲモニーをもつ国は同時に世界の中心的生産拠点だったが、今後は分裂し、中国やインドが世界の工場になるけれども、資本をコントロールしたり、世界経済のルールを定めたりして、中国やインドの成長の余剰を吸い上げるのは別の地域になる可能性がある。
欧米が手を組んでG2になるか、そこへ中国が入ってG3に?


(注1)資本の利潤率は長期としては利子率として表れる。<本書では1350年〜現代までの利子率グラフが載ってます。気になる方は是非本書にあたってください>

(注2)歴史を踏まえている点を重視するので、この部分の詳細を以下に。
オランダの東インド会社に資本が集まり、蓄積される。その結果利回りが下がっていき、利子率が2%に近づくと、オランダに投資する魅力がないので、じゃあナポレオン戦争でイギリスが勝ったからということで、イギリスに投資資金が移る。しかし産業革命のあと、イギリスでも金融化が起きて、もうこれ以上イギリスでは投資機会がないということになる。そこで今度はドイツやアメリカがイギリスを追っかけて工業化していて、そちらで高いリターンが得られるのでアメリカに投資される。

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かなり簡単にまとめると、以上なのだけれど、
本章では、カール・シュミットの『陸と海と』、ジル・ドゥルーズとフェリックス・ガタリの共著『千のプラトー』が引き合いに出され、ヘゲモニーと空間支配の関係(≒ヘゲモニーと軍事力の関係)、欧米中の3つを軸にヘゲモニーのゆくえ等をもっと細かく論じられているので興味を持たれたら、本書にあたってください。
お薦めです。
上記以外で興味深かったところを整合性を保つ為に補足しつつ抜粋。
水野「中国にはアメリカのヘゲモニーをそのまま奪い取るような力はまだありません。そういう意味では、実現性が高いのは後者のシナリオ(欧米連合体が軍事と金融を牛耳って世界経済のルールを定め、中国の経済成長の果実を吸い上げるというシステム)だと思います。おそらく中国がアメリカやEUから何らかの見返りをもらって、バランスを取る。それで満足するということになると、いよいよG3の時代がくるんですかね。」
萱野「リーマン・ショックから1年ほど経った頃に、それを裏づけるような朝日新聞の記事(2009年10月25日)がありました。アメリカのピーターソン国際経済研究所ってあるじゃないですか。民主党とのかかわりが深いところですけれども、そこの所長が、ドル基軸通貨体制はもうアメリカの国益ではないといっているんです。今後はユーロとドルの二極基軸通貨体制でいくべきであり、G何とかという枠組みも、米中のG2か、あるいはEUを入れたG3でやるべきだといっているんですね」


以上の対談を行ったのがいつなのかはわからないけれど(ギリシャ危機の前だと思うのだけど)、2011年の現時点でドルとユーロの二極基軸通貨体制はありえないでしょう。ギリシャ危機があって、次はポルトガルがヤバイとか、イタリア、フランスの内政状況を見てると。

ローマ帝国はなぜ滅びたのか」とか「覇権国家であり続けるためには」ということをアメリカでは研究し、研究した人たちが論文を競い合い、その中で優秀なものを書いた人が政治に関わっていくというシステムがあるらしいので(副島隆彦の著書より)、アメリカはヘゲモニーをなかなか手放さないであろうことは間違いなく、また中国は中国人の繋がりがすごいので(華僑の繋がり、といった方が正確か?)、自国民から利益を吸い上げ、他国へ譲るという選択をするかどうか。
今回の胡錦涛の訪米で、オバマから今回も人民元切り上げを要求されてたけど拒否してたし。



【注意】“本書に収められた対談をはじめたのは2009年初頭”と、本書のあとがき的部分の「対談を終えて」にある。




おかしな点があったらご指摘の程よろしくお願いします。