『超マクロ展望 世界経済の真実』(水野和夫・萱野稔人の共著)を読んで・・・・・・【要約】その5

第4章 バブルのしくみと日本の先行性 −日米関係の政治経済学−

ニクソン・ショック以降の米国経済
萱野「私たちはここまで、資本主義は現在どのような歴史的状況にあるのか、ということを議論してきました。そこで明らかになったのは、資本主義はいま極限的な状態に達しつつあり、これまでになかったような大きな歴史的転換をむかえている、という現実です。
 では、そうした極限的状況を日本経済はどうやって乗り切っていけばよいのでしょうか。この問題を考えるために、まず、金融化するアメリカ経済のもとで日本経済はどのような状況に置かれてきたのかを確認していきたいと思います。」
水野「二十一世紀の利子率革命がまさに日本で進行しているように、ある意味で、資本主義の極限状態が日本でもっともあからさまにあらわれています。その日本を、金融経済化してきたアメリカに対してどのように位置づけるかは、とても重要な問題ですね」(148頁より抜粋)
と言って、このあと主にニクソン・ショック以降のドル政策・経済政策(レーガノミックスの失敗、ルービンの強いドル政策の成功。それぞれの要因等)に注目していく。

そもそもニクソン・ショック(≒金・ドル交換停止策)は、米ソ対立のこともあり、WWⅡで疲弊していたヨーロッパ(と日本)を立て直すため援助していたアメリカの財政赤字が膨らみすぎたことが背景にある。
ニクソン・ショックでドルの切り下げ、変動相場制の導入。
ニクソンはこの時「この政策の目的、効果は“長期的に”言うと、ドルを強くすることである」と述べている。
共和党はこの頃から金融経済で優位性を確立しようとしていたのでは?(水野氏の私見)
というのも、レーガノミックス(例えば、1983年の日米円ドル委員会設置)、
1990年代は共和党以上に共和党的と言われたクリントン政権の元、ルービンの「強いドル政策」に注目すると、そのことが浮かび上がってくる。
レーガン時代は債権でお金を集めたことに対し、ルービンの時は主に株式で集めた。前者は利払いの有り、後者はない。それが成否を分けた(注1)

ルービンは集めた資金で国内バブル(90年代のITバブル、2000年代前半の不動産バブル)を起こして、それからアメリカが外国に投資する時は相手国をバブルにして(ドバイ等が当てはまると思われる)、海外から調達したお金を使って高いキャピタルゲインを得ていった。これは、お互いバブルに依存しあってる構造。



(注1)ルービンの後任サマーズ財務長官は「アメリカの借金は借金ではない」なんてことを2001年から言い始めている。国際収支の中身をみるとエクイティとして資金が入っているので、それは借金じゃないと言えなくはない(水野氏)



●日本のバブルは米国より何故先に起こったか。
主な理由は2つと水野氏。1つめ、日本は第一次オイル・ショック以降、貿易黒字が定着して、世界の対外純資産国になり、自国の貯蓄で十分バブルを起こせるだけの資本が蓄積されていたこと。
2つめ、「日本は自らバブルを創出することによって対米資金還流を積極化し、折から軍拡を続けていた米国を金融面で支えたこと、その意味で日本のバブル経済化とは、冷戦にとどめを刺そうとしていた米国の覇権を裏から支える国際政治的意味合いを持っていた」(谷口智彦著『通貨燃ゆ』19〜20頁)

(以下、本文抜粋)

水野「レーガン政権は、ソ連と激しい軍拡競争をしていましたよね。それによって拡大する財政赤字を日本の企業がファイナンスしていたのです(注2)たとえば日本の生保はザ・セイホといわれて、プラザ合意でドル安になったとき、たしか大手7社で1.7兆円を上回るそんを出しています」
萱野「アメリカの国際で?」
水野「そうです。でも、そこで損をしたので引き揚げるとなったら、アメリカは困ってしまう。それで、ザ・セイホがドル債投資で損しても、それをはるかに上回るような含み益があればいいということで、アメリカの要請のもとで日本でバブルが引き起こされたんだという説明です。うーんとは思いますが、たしかにアメリカならそれぐらいのことはやりかねないなという気はしますね。
 バブルのピークは、ベルリンの壁が崩壊した直後の1989年12月末に日経平均株価で3万8000円記録したときですが、翌年になると、株式の先物市場で日経先物というのがちょうどできて、今度はそこで外国人投資家主導でどんどん売り浴びせがなされるんですね。それでみるみる日経平均が下がっていった。アメリカからすれば、米ソ冷戦が終われば日本のマネーはもう必要ないわけですし、日本のプレゼンスがこれ以上大きくなるのは好ましくないと思っていたとしても不思議ではありません。しかし、ちょうどその頃、湾岸戦争(1991年)が起こったので、平均株価が2万円になっても、その下落は湾岸戦争による一時的な下落だと思われていました」
萱野「湾岸戦争が終わればまた上がると」
水野「みんなそう言ってました。湾岸戦争が終わればすぐまた4万円になっていくんだと。私もそうだと思っていた(笑)。ところが湾岸戦争が終わってもぜんぜん上がらないんですね。つまり、レーガノミックスで対ソ軍拡競争にアメリカが勝ったから、もう日本の土地バブルは必要ないと。
 そういうふうに解釈するのでなければ、1989年11月9日にベルリンの壁が崩壊して、1,2ヶ月で日経平均株価がピークをつけたのは、偶然というにはあまりにもでき過ぎているんじゃないかと思うんです」

(本文抜粋、ここまで)

(以下、本文内でも抜粋されてる孫崎享著『日米同盟の正体』94頁より抜粋)
「スタンズフィールド・ターナー元CIA長官は、『新世界秩序に対する諜報活動』で『冷戦後の情報収集で重要なのは経済分野と第三世界だ』と主張した。日本経済はCIAの標的となる。このことはCIAが日本経済に被害を与える工作を行う可能性を示唆している」

これ以降もアメリカの思惑と、ほぼその思惑通りになっていく日本の姿が指摘されていき、
最後の方で、「近代において、日本はバブルとデフレ等を先取りしたので(笑)、世界を(=先進国の中で)先行している。
さきがけて今ある諸問題をクリアできれば、世界をリードできるのではないかと」というように結んでいる。


以下の注は、私が勝手に入れたもの。
(注2)168頁で水野氏は「この時の日米関係は、16世紀のオランダの独立を阻止しようと戦争していたスペインと、そのスペインを財政的に支援していたイタリアの関係に酷似している」と指摘。
萱野氏も「バブル崩壊後に日本経済が停滞したり、21世紀の利子率革命が起こったりしたことも含めると、いまの日本と当時のイタリアには恐ろしいほどの酷似性がありますね」と述べている。

                                                                                                                                                                                                                                  • -

まとめとしては以上なのだけど、水野氏が「アメリカにとってこれは誤算だったのでは?」と指摘している箇所が面白いので172頁〜173頁より抜粋。

水野「ソ連との軍拡競争でアメリカは巨額の財政赤字がつづくのでアメリカの国債を(日本に)買ってほしいというのがあったと思うのです。しかし、ちょっとだけアメリカに誤算があるんですね。ベルリンの壁が崩壊したからいいだろうと思って日本のバブルを崩壊させたら、ほんとうに日本はお金に困ってしまった。
 実際、日本は米ドル債を売りアメリカから資本を回収しました。それからドイツも同じ1991年に東西ドイツの統合で旧東ドイツの復興にお金が必要になったから米ドル債を売ってドイツに戻しているんですね。当時、日米独で世界をファイナンスできるという状況でしたから、日独の2カ国が引き揚げたらやはりアメrカは困ってしまった。S&L危機(貯蓄貸付組合の連続破綻)も起こりましたし」
 ロナルド・マッキノンという著名なアメリカの経済学者が『ドルと円』という本で、1991年にS&Lが崩壊したのは、日本とドイツが米ドル債を売ったからだといっているんですよ。やっぱりアメリカはそう見ているんだなと思いました」
萱野「そんなこと日本ではまったく知られてないですね」
水野「ないですよね。マッキノンといえば、アメリカの大御所中の大御所の経済学者です。そういう人の本のなかに堂々と書いてあるわけです。それをみて、さまざまな情報をいまからつなぎ合わせると、対日戦略といのがやっぱりあったんだろうなと思います」

(抜粋、ここまで)



以下、私見
アメリカの金融バブルは流動性を高めた資本を新興国(≒後進国)に注ぎ込んで、利益を上げ続ける。全世界では人口が増える傾向にあるので1つの国の実物経済が停滞するまで、そこで回し続けていく。それが可能だと考えていたのでは?

アメリカは、かつての覇権国が衰退していった理由を分析しまくり、自国はそうならないよう戦略を立てていた。
しかし、なんでも計画通りに行かないのは常。盛者必衰なので、アメリカもこれから没落していく(チュニジア、エジプトでの反政府デモによる中東不安。ロシアにも飛び火したような動きが・・・)

アメリカの発言力が弱まっていくのを中国は待っているのでは?



おかしな点がありましたら、ご指摘の程よろしくお願いします。