『超マクロ展望 世界経済の真実』(水野和夫・萱野稔人の共著)を読んで・・・・・・【要約】その2

・第1章「先進国の越えられない壁」
●先進国(日本は除く)は、交易条件(安く資源を仕入れ、製品を作って高く売るという効率のいい貿易ができているかをあらわす指標)の悪化により実物経済から金融経済へとシフト。


交易条件が悪化したのは、1973年の第一次オイル・ショックから。
第一次オイル・ショックまではタダ同然で仕入れることができた原油等の価格があがり、
1994年の原油価格は1バレル17.2ドルで日本全体で年間4.9兆円の出費。
2008年は1バレル99ドルで日本全体で年間27.7兆円の出費。

交易条件は、あくまでモノやサービスなど、実物経済の状況を表したもので、
資産の売買回転率を高めることによって得られる売却益は交易条件の影響を
受けない=株式投資キャピタルゲインなどは含まれない。会社でいえば運用損益は
除外されている。先進国は交易条件が悪化したことで、金融に儲け口を
見出していくようになる。
例えばアメリカの全産業の営業利益のうち2001年10〜12月期には、
金融機関の利益が全米企業の49%を占めていた。10年間の利益増加分で比較すると、
金融機関の増加利益は全産業の84%にまで達する。アメリカの労働人口のうち、
金融機関で働いてる人は5.3%。つまり20人中1人の人が利益の半分以上を稼いでいる。
製造業で稼ぐ日本の経済とはかけ離れた姿。
日本は省エネ技術で1999年ぐらいまで乗り切っていたが原油価格の高騰がすごく、
省エネ技術が追いつかなくなった。
交易条件の悪化を省エネ技術で克服できなかったアメリカは、
レバレッジをかけ金融で利潤の極大化を目指す。
1995年以降、アメリカは日本やアジアの新興国で余っているお金を
自由に使えるようになり(国際資本の完全移動性の実現)(注1)、
これが金融経済拡大に拍車。世界中から投資されるお金によって、アメリカで
ITバブル、住宅バブルが起こり、その過程で債権の証券化などのさまざまな
金融手法が開発され、サブプライムローン問題なども生じることとなった。
こうして、1995年から金融危機が起こる2008年までの13年間で、
世界の金融機関全体で100兆ドルものお金が作られた(注2)


話は戻り、石油の話。
オイル・ショックあたりまでは、英米蘭の石油メジャーが世界の石油を
ほぼ独占=原油の開発権の独占、国際カルテルを結んで価格を仕切っていた。
60〜70年代にかけて、産油国で資源ナショナリズムがまきおこったことの直接的な帰結。
植民地だった資源国が独立を果たし、自国の資源をその価格も含めて自分たちで
管理しようとした。OPECの発言力、一気に高まり、石油の価格決定権は
1980年代前半までOPECが手にする。
この価格決定権をアメリカが取り返そうとして1983年にできたのが、
WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)先物市場。
石油の先物市場をつくるということは、石油を金融商品化するということ。
これ以降、石油はアメリカやロンドンの先物市場で価格が決定される(注3)


イラク戦争が起こった本当の理由の1つは、2000年11月にイラク大統領のフセインが、
「これからは石油の売上代金をドルでは受け取らない、すべてユーロで受け取る」
と国連に対して宣言し、承認されたこと。
これは、石油に裏付けられたドルの基軸通貨体制にフセイン
対抗したということ(注4) つまり、イラク戦争は、石油そのものを巡って
行われたのではなく、石油についての国際的な経済ルールをめぐって
なされた戦争であるということ(注5)

2008年の金融危機は、アメリカによるグローバル経済の支配の
曲がり角にきてるということかもしれない。
グローバル経済におけるアメリカのルール策定能力が今後も
維持されるかどうかは怪しい。G20でヨーロッパ側は金融規制を強化しろと主張。
アメリカは本心ではそんなに規制したくないが譲歩せざるを得ない状況。
アメリカの覇権は揺いでいる。


(注1)マーティン・フェルドシュタインとチャールズ・ユウジ・ホリオカは
1980年に発表した論文で「国際資本の完全移動性」に関する検証方法を提唱。
この検証方法によって、1995年に国際資本が国境を自由に越える様になったことが明らかになった。

(注2)100兆ドルの内訳、アメリカ4割、ヨーロッパ3割。残り3割の記述は本書になし。
日本は戦後60年がんばって1500兆円の金融資産。欧米主導の金融空間では、
たったの13年間で100兆ドル。これは途方もない数字<通貨単位の違いに注目>

(注3)WTI先物市場にしても、ロンドンのICEフューチャーズ・ヨーロッパ(旧国際石油
取引所)にしても、そこで取引されている石油の生産量は世界全体の1〜2%。
世界全体の1日あたりの石油生産量は、2000年代前半の時点で大体7500万バレル。
これに対して、NYやロンドンの先物市場で取引される1日あたりの生産量は
せいぜい100万バレルで1.5%にも満たないが、先物取引というのは相対取引で何度も
やりとりするので、取引量だけでみると1億バレル以上になるその取引量によって
国際的な価格決定をしてしまう。

(注4)ドルが基軸通貨であり続けることが、アメリカが覇権国家であり続けることを
支えている。

(注5)先進国にとっての戦争が、ある領土の支配権を獲得するためのものではなくなり、
脱領土的なシステムを防衛するためのものとなったことを表している=経済覇権の
あり方が脱植民地化のプロセスを通じて大きく変化したということ。
アメリカは中東にあまり石油利権をもってない。中東から輸入してる原油は、
アメリカの石油消費量に対して1割程度。それもサウジアラビアが自らの発言力のために
無理やり値引きをしてアメリカに勝ってもらってるようなところがある。主な輸入先は
カナダ、メキシコ、ベネズエラ。それにもかかわらず、中東で何かあれば一気に
国際石油市場のあり方に影響を与えるので、アメリカは軍事介入せざるをえない。

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以下、完全な私見
フセインOPECを巻き込んで「これからは石油の売上代金をドルでは受け取らない、
すべてユーロで受け取る」と宣言すればイラク戦争は起きずに、アメリカの覇権は
完全に揺らいだのでは?石油の売上代金がユーロで取引されることになれば、
EUの力は増し、アメリカ一極支配が終わったような気がするので、EUフセイン
OPEC」を巻き込めとアドバイスすれば(裏で糸ひけば)良かった気もする。
実際、そういう動きがあったかもしれない・・・・・・米国に潰されたか?

【追記】ジャスミン革命により、中東情勢は不安定になりそう。
米国との繋がりが深いサウジアラビナ等の国がどうなることやら。



おかしな点があったらご指摘の程よろしくお願いします。